『ヨザ沼関連不明者名簿』(ガダカイ国立ヨザ沼博物館 / 編)

レビュアー:『探検庫』

探検愛好家達が運営する、探検に関する本や資料、道具などの様々な情報を提供、共有する、セレンディール文明以前からの古い歴史を誇る同名の組織が運営するサイト。

この淡々と人名と日付、簡単な略歴だけが書き連ねてあるだけの分厚い名簿が教えてくれることがある。

ヨザ沼の真の恐ろしさは、その深さでも危険性でもない、ということだ。

魅力、である。文字通り、この底なし沼は多くの人々を惹きつけ、飲み込んできた。そしてその事実がまた、更なる好奇心という撒き餌となって無限に人々を惹きつけ続け、飲み込み続けるのだ。

ヨザ沼の深さを測ろうとする試みは古代から現在まで数えきれないほど行われてきたが、未だに成功していない。「ヨザ沼議論」(結論の出ない不毛な議論)なる言葉が、ガダカイのみならず、遠くラディール大陸やルグディール大陸、ルドルーズ大陸にまで伝わり、使われていたという驚くべき事実からも、この沼がどれほど多くの人々の関心を呼び続けてきたかがおわかりいただけよう。

この沼から得体の知れない生物が出てきたのを見たと目撃談を語る者が後を絶たず、また、著名なダイバーが調査中に行方不明になったり、深度計測のための丈夫なロープがかなり深部まで到達したところで鋭利な何かに切断されたりといったようなことが頻発したため、深い部分では非常に広くなっており、そこには何か巨大な生物が棲んでいるのではないかなどと多くの人の想像を掻き立てている。

現在でも調査は継続して行われているが、依然としてその全貌は全く見えてこない。その為、多くの探検心あふれる人々の関心をひいてしまうが、この沼は紛れもなく、世界でも最も危険な場所のひとつである。この名簿を見れば、どれだけ多くの勇気ある人々が、その貴重な命を落としてしまったのかが実感できよう。

かつては勇気ある行動であったかもしれないが、周到な準備をした研究者や、世界的に知られる探検家なども含めた多くの犠牲者を出すという悲劇を連ねたことがわかっている現在でこの沼に潜って調査をしようなどと考えるのは、無謀な行為でしかない。

『ヨザ沼関連不明者名簿』にあなたの名が記されることになるだけである。

と、どれほど忠告しようが、人の好奇心とは抑えられないものであるということ、そしてそれが偉大な発見に繋がってきたということもまた、歴史が証明している。いや、歴史が証明するまでもなく、我々の魂が、それをよく知っている。

ヨザ沼に挑む時にはせめてこの名簿を傍らに置き、この沼の恐ろしさを片時も忘れることがないようにすること、そして可能な限り徹底した安全確保の手段を講じることを心掛けること、このささやかな助言だけは、受け取っていただきたい。

「ヨザ沼議論」という、始まりがいつなのかも忘れられた言葉を『消字典』に掲載させるのは、あなただ。