『レムール ─ レムールを見ることに生涯をかけ、レムールを生涯一度も見なかった男の話』(リーズ・ヴァナー)

レビュアー:レムール博物館 / レムール書房「レムールを愛する人のための読書案内」

レムール専門博物館。レムールの数少ない骨格標本や剥製、レムール研究者たちのノート、その他遺品、レムールに関する美術や工芸などを展示している。

タイトルだけ見ると悲惨な話のようだが、そうではない。

「レムールを見ることに生涯をかけ、レムールを生涯一度も見なかった」男の名は、ゴード・イルヤ。子供の頃、絵本を読んで、幻ともいわれる「野獣の王」レムールの伝説に魅せられ、いつかレムールをこの眼で見よう、と決意した。

貿易商となり、資産を蓄え、さっさと仕事は引退し、定期的に探検隊を組織して、調査旅行に向かった。何度も、何度も。

世界中を周り、様々な場所へ行った。ラディール山脈を命懸けで越え、ルグディール大陸でアルナディールやオオトゲオレンディスに襲撃され、大怪我を負い、ザヴァール族と交渉してヴェラル大森林に長期間住んで、毎日探索に行った。

レムール探しの探検中に、数々の新種生物、ルグディール大陸の遺跡(後にルグディール族によってゴード遺跡と名づけられた)発見をしたりと、本人の望みとは関係ないところで活躍してしまう。

だが、結局、最後までレムールを見つけることは出来なかった。彼は老衰で死期が近いこと、もはや探索に行く体力はないことを受け入れ、レムール探しは終わりであると宣言した。

この宣言を聞いた世界中の、レムール探しで知り合った友人、調査隊に参加した現地のガイドや研究者といった仲間達が彼に別れを告げに集まり、レムール探しの思い出を語り合った。死ぬまで毎日、仲間達の訪問を受けた。その中には、彼が帰った後にレムールを目撃した者もいて、ゴード・イルヤは羨ましそうに笑った。

彼は亡くなった。彼の葬儀には、大勢の人が集まった。彼の情熱、夢を語り、実行する姿に勇気づけられ、笑顔にさせられ、落胆を慰めて派手に遊んだ仲間達が。

陳腐な言い方だが、彼は「レムールを目撃する」よりもはるかに豊かで巨大な宝を人生で得た人間だったのだ。

陳腐な言い方だが、彼は「レムールを目撃する」よりもはるかに豊かで巨大な宝を人生で得た人間だったのだ。

何と、魅力的な人生だろう。

この傑作伝記を読んで勇気づけられた人が、どれだけ、いたことだろう。夢は追うこと自体が宝なのだと気づいて自分を奮い立たせた若者はどれほどいただろう。

なお、レムールと言えば誰もがまず思い浮かべるであろう偉人、レムールの幼獣に懐かれ(最初はレムールだとは夢にも思わず、やたら脚の太い、丸っこいレムンの幼獣だなと思っていたそうだ)、そのまま生涯の相棒として一生を共に過ごしてしまった、セレンディール文明創始者ラヴェニールの親友にしてその後継者たるラクール・ルーネリーもまた、本書と『ゴード・イルヤ探検日誌』を愛読し、冒険心をかきたてられ、冒険に満ちた生涯を送った人なのだ。

もしかしたら・・・・・・もしかしたら、ゴード・イルヤの生き様が、ラクール・ルーネリーという偉人の生き様にも影響を及ぼしたのかも・・・・・・しれない。

レムール

「野獣の王」と呼ばれる最大最強の陸上肉食動物。

古代より数多の神話や伝説、文学や歌、美術品などでその圧倒的な強さ、美しさを称えられ、またその恐ろしさが伝えられてきた。

個体数は非常に少ないが、遭遇すれば死は確実と言われ、「絶対の死」の象徴にもなっており、レムールに滅ぼされた民族や村なども実在する。

レムールには気品や気高さ、誇り高さといったイメージもあり、王族や貴族の紋章などにもよく用いられていた。