『リーン狂い』(リーズ・ヴァナー)
レビュアー:レゴール国立中央リーン博物館
世界最古・最大のリーン専門博物館。
表紙の、希望に満ちた精悍な男と、裏表紙の、片目と片足を失い、生気の全く感じられない表情をした痛ましい男は、とても信じられないだろうが、同一人物である。
彼が、本書の主人公だ。
リーンハンター、リダ・ジーディル。金持ちになり、愛する家族たちを楽にしてやるためにリーンハンターとなることを決意し、単身ルグディール大陸に渡ったこの勇敢な男は、幾度も死にかけながらも、持ち前の胆力と機転で危険を切り抜け続け、ついに、伝説のリーン「ルグディールブラッドリーン」を無傷で捕獲した。
これで彼は、大富豪だ。リーンの中では比較的、捕獲が容易な(どの種でも稀少であることに変わりはないが)種ですら、レゴールやヴェリアートの都心部に豪邸を建てられるほどの高額で売れるのだから、これまでに三個体しか捕獲に成功しておらず、標本に至っては一個体しか現存していない「ルグディールブラッドリーン」ともなれば、どれほどの価格になるのか、想像もつかない。
だが、誰にとっても信じられない行動を、彼はとった。何と、売却を拒否したのだ。彼は、この、透明な赤の甲殻を、生贄の少女の生き血をそのまま固めて甲殻にしたという恐ろしい伝説を持つ美しいリーンに魅入られてしまったのだ。手放すものか!彼は寄ってくる商人や同業者を退けた。彼が「ルグディールブラッドリーン」を捕獲したことは本国にも伝えられており、家族は、それを売ろうとしない彼を責めた。
リダ・ジーディルはこの、自分の家族達を罵った。俺がこの美しいリーンに惚れ込んで喜んでいることになんか興味ないんだな!?そうか、俺が金を持ってくることにしか、興味がない連中だったんだな!?俺の気持ちなんてどうだっていいってんだな!?金だけなんだな!?金の亡者め!自分は安全なところにいて、俺には命かけさせて、リーン、いや、金だけは送れだと!?よくもそんな図々しいことを言えるな屑共め、貴様らなんぞ、くたばれ!!くたばりやがれゴミ共が!!!
彼は家族との連絡も一切絶ち、更に多くの種のリーンを求める旅を継続することにした。すでに「ルグディールブラッドリーン」を捕獲していたことから、金は投資家たちから容易に借りられた。これで、もっと探せる。もっともっと、この至高の芸術品を、手に入れられるんだ・・・・・・。そして彼は、ルグディール大陸の更に奥へと入っていった。
そして彼は見事、リーンの新種を三種も発見し、捕獲するという偉業を成し遂げた。だが、それまでの幸運は、もはや続かなかった。この後、貿易船の待つ港まで向かう途中で、アルナディールに襲撃され、片足と片目を失う大怪我をしながらも命は助かったが、三種共、失ってしまった。更に港近くで保管しておいた「ルグディールブラッドリーン」は、借金のカタとして奪われ、片目、片足になった彼に新たに投資する者はもはやいなかった。リダ・ジーディルは、偉業を成し遂げながらも、絶望の中で自死した。全てを呪いながら。
何とも、やり切れない話ではあるが、それでも、彼の名と情熱、偉業は、彼が発見した三種のリーンと、本書のような素晴らしい伝記作品や映画作品の中で、生き残り続けるであろう。
なお、彼がこの旅で撮影した、リーンの新種三種やルグディールブラッドリーンなどの写真の原データは、本館にて保管されている。
リーン
シルエットがリズディール類(竜鳥)に酷似している為、「小さなリズディール」とも呼ばれる虫。
セレンディール文明以前のレゴールなどでは、ステータスシンボルとして貴族や富裕層に絶大な人気があり、一匹を入手するために豪邸を建てられるほどの巨額を費やした。
この為、リーン類専門のハンターもいたが、リーン・ハンターの多くは命を落としたり破産したりするなど、悲劇に見舞われていたことでもよく知られている。そして、その多くは命を賭けねば生涯、悲惨な暮らしから逃れられないような社会的弱者であった。
そういった歴的背景からリーンには、欲望や虚栄心、富、熱狂、また、それらによる破滅といったイメージがあり、文学や美術、ことわざなどに象徴として用いられる。
