『ラヴェニール文明の糸 ─ 光糸と輝糸』(ルージェ・ネヴィルーズ)

レビュアー:ヴェリアート糸博物館

世界中の「糸」を収集・展示する「糸」の専門博物館。

本書は、生物の「色」についての世界的権威にして、ラヴェニール文明の非常に美しい伝統織物「光織り」などに使われていた、光糸と組み合わせて使われていた美しい輝糸(きいと)が、生物の構造色を応用したものであったことを解明し、また、その技術の復元に成功したことで知られるルージェ・ネヴィルーズ自らが、名著『輝糸の研究』の内容を一般人向けに、やさしく専門用語を使わずに面白く書いた科学読み物である。

「美の文明」と呼ばれ、今なお、多くの人々を惹きつけるラヴェニール文明時代に生み出された光糸や輝糸が、光織やリューズの衣装や舞剣の柄などに使われていたことなど、興味深いトピックを取り上げ、生物の構造色などについて、そしてその構造色をどのように糸として応用したのかなどについて、詳しく、ただし数式などは一切使わずに解説する。

特に、ヴァリド・イルーディス監督による歴史的傑作『一夜限りの音』で、ルナレティー役のイーレイ・ネイレルの為に作った衣装が、光糸や輝糸を使って織られたものだと聞けば、身近に感じられ、それに絡めての解説には引き込まれてしまうだろう。

訳注

ラヴェニール文明

一般に「美の文明」と呼ばれるように、美を「絶対善」とし、非人道的なまでに美への追究を徹底したことで有名な文明。はるか古にラヴェニール文明が滅び、その後継文明となったルウェイン文明すらもセレンディール文明に飲み込まれ滅びた現代でもなお、「美の基準」はラヴェニール文明の影響が色濃く残っているほどに大きな存在感を有し続けている。

ラヴェニール文明を象徴する存在として「セレンディール人」「リューズ」がある。ラヴェニール文明が、美に関して技術的にはもはやこれ以上はほとんど成長の余地が無い、という、限界に近いところまで到達し、停滞期に入っていた時代に生まれた伝説的な王ルーレイ・ラナディーレリーにより、絵や彫刻、物語などの「作り手」側ではなく、「対象」側、つまりモデルとなるものを美しくしてゆけばよい、という恐ろしい考え(元からラヴェニール文明にはそういう傾向はあったが)が徹底的に推し進められ、これが、後のヴェルナトールとリューズレイ、そしてセレンディール人誕生へと繋がり、このヴェルナトールとリューズレイの兄妹により、リューズとセレンディール人は完成の域に達した。

ラヴェニール文明が生み出した美には、その絶対的な美しさと共に、常に死のイメージが付きまとうほど(事実、ラヴェニール文明には、死を「美」への貢献につながるものと考える思想が根底にあった。「セレンディール人」「リューズ」訳注参照)、現代の基準では人道に反する所業を連ねたにも関わらず、今なお、多くの人々を魅了し、憧憬を以て語られる文明である。