2026-09-13 13:13

『写真集 ミーリィの笑み』(シーゼル・ユリーク)

レビュアー:メゼル・イーディン『本を読めば暇じゃないよね』

ルクトレスの文学者、カイズ・セタリ研究者、エリル・イーレア文学院教授。主に文学が政治や経済、他の芸術に与える影響についての研究が専門。

『カイズ・セタリとレゴール — “微笑み”が超大国で憎悪されたのは何故か』でルウェイン学術賞、『物語の生贄』でセレンディール図書館賞を受賞。

世界横断都列車で無料配布されている雑誌『暇つぶし』で連載しているブックレビュー『本を読めば暇じゃないよね』が、ユーモアのある文体で大人気。単行本はベストセラーとなっている。

主な著作に『カイズ・セタリとレゴール — “微笑み”が超大国で憎悪されたのは何故か』『物語の生贄』『ベストセラー分析 ─ 億を超える人に読ませる力の源はどこにあるのか』『本を読めば暇じゃないよね』『解題誘いの諍い 山応応酬紹介と詳解』などがある。

「ミーリィの笑み」と言えば、悪意を隠し持った笑みのこと、という意味になる。笑っているようなユニークな顔つきながら、生態は非常に恐ろしいものだからだ。

だが、ミーリィ研究の第一人者にして「ミーリィの愛人」の異名を持つシーゼル・ユリークに言わせればそんなものは戯言だ。ミーリィの笑みほど、心を和ませてくれるものはない。

というわけで、ひたすら、「ミーリィの笑み」だけが何百ページ、何千枚もの写真で埋まっている狂気の写真集である。

もちろん、同じ写真とは言っても、同じ個体は一尾たりとも掲載されていないのだが、素人目にはどれもこれも同じような顔にしか見えない。それが数千枚。しかも続巻まで出ていて、それも同じ構成だとか。本気かよ。何という執拗さか。これは執念だ、妄執だ。やはり変人だ。

うへぇ、よくまぁ、こんな写真集を出す気になったものだと驚き呆れるが、何となく、パラパラめくっていると、何となく、止まらなくなる。何となく、続けて眺めているうちに、何となく、可愛く見えてくるような気もする。何となく素晴らしい写真集のような気がしてきて、何となく、見続け・・・・・・物足りなくなる。

もっと「笑み」を見たい。何と豊かな表情なのか。みんな個性があって、同じ顔など一つとて無い。何ていい笑顔なのだ。愛い奴め。

そこに妻が来て言った、「何よ、みんな同じ顔じゃない。よく見飽きないわね」。

ふふん。哀れなものだ。この魅力がわからんとは。

訳注

ミーリィ

群れで獲物を襲う水棲の捕食生物。

背びれが鋭い刃状になっており、上から下に弧を描くように獲物の体に切りつけ、パクッとあいた傷口に、群れで一斉に飛び込んでいき、体内に生きたまま侵入して中から食い荒らすという恐るべき生態から、古代より人類に忌み嫌われてきた。

実際にミーリィの犠牲となった人間の数はそれほど多くないとされているが、数は少なくともその死に様があまりにも壮絶であることから、犠牲となった者の身内などの憎悪は激しく、また、それを伝え聞いた人々もまた同様に、ミーリィを恐れ、嫌悪するようになる、などの悪循環がかつてはあった。そのため、ミーリィに関しては基本的に、ネガティヴな言葉や民話、神話などがほとんどである。 

「群禍」と呼ばれることが最も多いが、他にも「常飢」「虐移し」など様々な名で呼ばれてきた。