2026-08-13 13:13

『リューズレイ人形師』(レルーリ・ユーレン)

レビュアー:レーネル・レヴィク ルクトレスの宗教学者。専門はラヴェニール教、セレンディール人について。セレンディール人の容姿が皆、酷似していることについてをテーマとした主著『セレンディール人研究』は非常に高い評価を受け、ルウェインの学術最高賞である「ルウェイン賞(研究部門大賞)」受賞を皮切りに、多数の受賞をし、現在でも修正をしながら版を重ね続けている歴史的名著。ジュレール・イーレイ、エルーネ・リューレイの「リューズ復活」プロジェクトに主要メンバーとして尽力したことでも知られる。主な著書に『ラヴェニール教とセレンディール人』『レルーリ・ユーレン ─ 美醜の鮮やかな対比』『リューズレイ人形師を殺したかった父親』『研究手法としての美術技法』などがある。

ほぼ確実に苦情が寄せられることは承知の上で、本書を紹介する。率直に言えば、このレルーリ・ユーレンという人形師は、変態である。異常者である。極めて不快な人間で、特に女性で彼に好感を持つ人はまずあるまいと思われる。が、天才である。彼は嫌いでも、彼の作品、「リューズレイ人形」には夢中になってしまう人は実に多い(女性も含めて)。公言しないだけで実は隠れファンという人も相当数いるのは確実である。彼の作品集は、非常によく売れるというのがその証左である。レヴァティスにある「リューズレイ人形美術館」にも、小さい美術館ながら、世界中から多数の人が集まる。彼は生涯、「リューズレイ」という、ラヴェニール文明が生んだ美の象徴とも言えるセレンディール人少女だけを愛し、彼女を再現しようとする試みである人形のみを作り続けた。

本書は、レルーリ・ユーレン自身の手になる自伝である。文章はお世辞にも上手いとは言えないし、内容も、正直なところ、かなり下卑ていて、性的な話が半分以上を占める上にその対象がリューズレイという「少女」なので、とにかく色々な点で読みにくい。人前では絶対に読めない本だ。しかし、ベストセラー且つロングセラーなのである。あの美し過ぎる人形を作る秘密を探ろうとして、読んでしまうのだ。

基本的に、自伝というよりはリューズレイ讃美の本である。自身の生い立ちやリューズレイに目覚めたきっかけ、人形制作修業について、制作の具体的な話などに織り交ぜて、リューズレイへの讃美がひたすら続く。作品があれだけ魅力的でなければ、とても読めたものではない。品性が無さ過ぎて、知性もあるのか無いのかよくわからない。恐らく本来の知性はかなり高いはずであるし、リューズレイ及び人形制作に全て関連させる目的だけの偏った教養ではあるとはいえ、妙に博識でもあるのだが。

全ての始まりは、幼少時に両親に連れられ、ラヴェニール教美術館が限られた人々のみを対象として定期的に公開する、ラヴェニール文明時代の立体記録映像による、「リューズレイの舞」を鑑賞したことであった。この時、彼は生まれて初めて「性的興奮」をし、「恋」をし、そして「美」を知ったという。具体的に書くのは避けるが、彼はこの時、大勢がいる場で、リューズレイの名を叫びながら、性的な粗相をし、両親に無理矢理、引きずり出されたという。

この後、リューズレイに関するあらゆる書物、絵画作品や彫刻作品、写真、映像などを集めた。が、満足できない。集めれば集めるほど、気が狂いそうになっていったという。そして、自分の手で「リューズレイそのものである人形」を造ろうと思い立ち、さっそく、人形制作についての技法書を何冊も買い込んで、見様見真似で造り始めた。

だが、満足出来ない、造れば造るほど、「リューズレイの美しさ」は再現不可能であるという絶望が強くなり、それがまた、彼の狂気とも言える創作動機となる。それを繰り返し、精神は均衡を失ってゆくが、作品はより完成度を高め、美しくなってゆく(ただし本人はむしろ、更に本物のリューズレイとの差に絶望感を強めていった)。

という感じであるが、勿論これは、私が「穏便に」要約したのであって、実際にはリューズレイに対する想いや称賛、人形制作時や完成時の、おぞましい儀式などについての記述は端折っている。

これほど、万人には薦めにくい本も珍しい。リューズレイ人形に夢中な人、とにかく刺激が欲しい人、芸術家あたりにはお薦めするが、それ以外の人には・・・・・・というのが正直なところであるが、表紙のリューズレイ人形の 写真から目を離せなくなってしまった人は、買うしかないだろう(実際、だから、この内容にしてベストセラーなのである)。また、レルーリ・ユーレンと同様、リューズレイ含むセレンディール人への憧れに苦しむ人も、自分などよりはるかに、その想いをあからさまに公言し、苦しみ抜いた人間の言葉を読むことで、少しは救われるものがあるかもしれない。

多くの人を不快にさせる本であることは否定しない。だが、それでも、「書物の価値」を証明してくれる本であると、私は思う。

訳注

レルーリ・ユーレン

レヴァティスの人形師。生涯、ラヴェニール文明時代の、ヴェルナトールの妹として知られる舞踏家リューズレイの人形のみを徹底的に作り続けたことで有名。そのため、「人形師」ではなく、「リューズレイ人形師」と呼ばれることが多い。

作品は非常に高く評価されているが、存命中の発言、行動などが極めて過激なもの且つ、上品とはお世辞にも言えない内容(主に性的な内容)であった為、人格的にはあまり褒められることはない(率直に言えば嫌悪されることが多い)人物である。

幼少時に、ラヴェニール舞踊院にて、ラヴェニール文明時代の記録映像による、「リューズレイの舞」を鑑賞したことで、リューズレイに激しい、異常とも言える執着を抱き、「リューズレイ人形師」の道へと進むことになる。なお、両親には勘当されている。

旅行中に事故死しているが、その死には不自然な点も多く、ラヴェニール教徒として息子の言動を強く恥じていた父親による暗殺の可能性も示唆されている。

リューズレイ

ラヴェニール文明が「美の追究」の為に創り上げた、瞬見永執の美貌、人間離れした身体能力などを持つ伝説的な人種である「セレンディール人」の完成形と言われ、ルナレティーやレナティス、ヴェルリーズらと共に、人類史上、最も美しい女性として常にその名が挙げられる人物。

ラヴェニール文明時代、リューズで最高の踊り手と謳われ、千人を相手に舞を終える(つまり、一切触れられることなく千人全員を斬った)という伝説的な偉業「千刃不掠」を成した。

ラヴェニール文明時代の絶対的な権力者として君臨し、恐れられた伝説的な王ヴェルナトールの双子の妹としても有名。

その美貌により、旋律画創始者ヴァナス・リエンや大作曲家レルーディ・イストレイ、ラーザル・レフィーリー、イーレリー・アザルーディスなど数多の男たちを魅了し、その人生を狂わせつつも、その狂気や欲望、憧憬、期待と絶望などが織りなす悲劇もまた、リューズレイの生み出した美として文学や音楽など様々な形で人々を魅惑し続けてきた。

ヴェルナトールと共にラヴェニール文明の象徴的存在となっている。

セレンディール人

ラヴェニール文明が「美の追究」の為に創り上げた、瞬見永執の美貌、人間離れした身体能力などを持つ伝説的な人種。

要求される能力基準の異常な高さゆえに、セレンディール人にしか踊れないラヴェニール文明時代の舞踏芸術であるリューズは、常軌を逸した訓練と予算によって神懸かり的な技芸の域に達し、観るものを悉く魅了した。

この舞踊は命懸けの実戦形式となっており、美の象徴であるセレンディール人の対照として、犯罪者や奴隷、平民を敵役として出演させた。その多くはほぼ確実に死に至ったが、もし演舞中に、セレンディール人の髪に触れることができれば、莫大な報奨金及び身分の昇格といった栄誉、犯罪者であれば恩赦が与えられた為、志願者は後を絶たなかったというが、実際にそれを成した者はほぼ皆無であったことから、「リューズ」及び「セレンディール人」には、「死」のイメージが根底にある。