2026-07-13 13:13

『妄想王』(ヤビ・イリアビー)

レビュアー:パルード・ヴィスキ ノンフィクション作家、伝記作家、書評家、写真家。「エレルリーズ書店」の歴史を描いた伝記『女帝の名を冠した書店』でジェルド・ルードル賞を受賞。書店好きで、世界中の書店を巡り歩いている。

「妄想王」というおよそ高貴なイメージは喚起しにくいと思われる呼称で知られる、本作の主人公はレゴールの貴族ルドリーデル・レーヴェナー。そう、「あの」エレルリーズ・レーヴェナー、レゴールの誇りを体現した偉大なる「女帝」と同じ姓を持つ男である。ただし、「レーヴェナー名乗るなルドリーデル」などという言葉が今もなお、普通に使われるくらいに、その高貴なる家名を穢した愚か者として、名を残してしまったのだが。

妄想王、もといルドリーデルは、エレルリーズ・レーヴェナーを輩出したレーヴェナー家に連なる家系の末裔として生まれたが、セレンディール文明誕生と同時に施工されたセレンディール法の「全ての生来の特権階級の完全廃止」により、「平民」となってしまったことに耐えられず、同様の憤懣を持つ元貴族階級の人間たちを集め、セレンディール文明へのクーデターを起こした。が、あっさり鎮圧され、処刑された。

レゴール王になることと、レーヴェナー家(エレルリーズ・レーヴェナーの失踪で完全に途絶えている)の再興を夢見たが叶わず悲惨な死を遂げたが、客観的に見て、あまりにも非現実的な、妄想としか言いようが無いクーデターであったため、現在でも彼の名は「愚か者」の代名詞のような扱いを受けてしまうようになってしまった。

まさに「妄想王」の名に恥じぬ恥ずかしい男である。

なお、レーヴェナー姓を名乗っていたが、実際には、レーヴェナー家直系の出身ではない。ただし、自身の本来の出身である家系もレーヴェナー家と同格の名門である。レゴールで、貴族階級のみならず、民衆も含め圧倒的な支持を得ており、国外でも敬意を払われていた「女帝」エレルリーズ・レーヴェナーの血筋であることを強調し、クーデターへの参加を促そうとしたというのが定説。

「レーヴェナー」への改名は、レゴールの伝統に則った正式な手続きを経て行われたため、旧姓ではなく、レーヴェナー姓として記録に残されることが認められた。クーデターは失敗し、非業の死を遂げたが、本人の望んでた名誉の一部は得られたと言えるかもしれない。

もっとも、一番良く知られている彼の呼称は残念ながら、本書のタイトルとなったものである。

訳注

ジェルド・ルードル賞

『取り憑かれた人々』シリーズで知られる伝記作家ジェルド・ルードルを記念して創設された、優れた伝記作品に贈られる賞。ヴィーレ・クレグディール賞と並ぶ、ノンフィクションの最高賞。

エレルリーズ・レーヴェナー

レゴールの貴族。今なお、レゴールで最も人気があり、世界でも最も尊敬されている偉人の一人。通称「女帝」。「最後の貴族」とも呼ばれる。

幼少時、家族全員を皆殺しにされ(レーヴェナー家虐殺事件)ながらも、直後に虐殺事件時に自身を救出した特殊部隊長などを側近に引き立て、「レーヴェナー家の正統後継者」として政界に入り、子どもとは思えないほどの手腕を発揮してトップに上り詰める。

その後、「ラディール誕生と、それに乗じた、世界各国の植民地一斉蜂起」「竜禍」「レゴールの敗北(セレンディール文明誕生)」などの、レゴール史上最大最悪ともいえる時代に、最後まで「レゴールの誇り」として毅然とした生き方を貫いたことで、レゴール人のみならず、世界中の人々の敬意を勝ち取った。

「人禍記念博物館」と「竜禍記念博物館」の創設を提案したことは、レゴールに対する史上最大の貢献であると評価されている。

突然、行方不明となり、現在も謎は解明されておらず、様々な陰謀論を生んでいる。最も信憑性があると思われているのは、セレンディール文明創始者ラヴェニールの側近であるレナティスによる暗殺説。

レゴール

セレンディール文明誕生以前、超大国として圧倒的権勢を誇っていた国。

レゴール大陸全土および、ラディール大陸、パディア大陸、ルドルーズ大陸、ヴェラル大陸など、ルグディール大陸を除く全ての大陸の数千を超える国々が支配下もしくは実質的には属国状態の同盟関係となっており、「千国もレゴールに抗せず」「千国一様」などと自賛し、他国からは「レゴールが国で他は全て町か村」などと揶揄されるほどだった。