2026-06-13 13:13

『リーグ・ボイ・フメジャラボイ』(マーナル・ネイム)

レビュアー:ルーネル・ラザトディール(レヴァティスの神話学者、考古学者。ルーレク・レナリー博物館の初代館長。ルーレク・レナリーやセティーレーンなどの、「神話に登場する都市や街」などを専門としている。洞窟探検家のジルレクト・レパールが、ルグディール帝国時代の地下都市(ルーレク・レナリー遺跡)を発見した際、調査依頼を要請され、ジルレクト・レパールとの共同調査に携わったことで知られる)

「リーグ・ボイ・フメジャラボイ」・・・・・・このヘンテコというかユニークというか、妙に頭に残ってしまう言葉は、「フメジャラボイ」を呼び出す呪文である。フメジャラボイというのは、パディアの神話や民話に登場する、「謎の存在」として有名な・・・・・・謎の存在である。

困った時、「リーグ・ボイ・フメジャラボイ」と唱えると、フメジャラボイという奴が現れるのだが、事態を余計に悪化させてしまうことも多い。そして、今まで困難だと思っていたことなど、実は大したことでは無かったと思い知らされるという、哲学的というか教訓たっぷりなような、ただの迷惑なやつなような、とにかく、よくわからん存在である。

しかし、助けられることもある。本当に本当に理不尽な境遇で、もう、生きるのは無理だと思ってしまった人が、幼い頃に聞いたこの伝説を思い出し、何となく唱えたら、本当にフメジャラボイが現れて助けられ、生きる希望を取り戻した・・・・・・などという、心温まる話もあるのだ。

姿もよくわからない。話によって姿も変わるし、描写がフメジャラボイ・・・・・・じゃなかった、よくわからない描写になっているからだ。真ん丸でモフモフで丸い脚だけが出ていて、転びながら走るという描写もあるし、フカフカな、ムーフィのシッポのような外見で、全身をくねらせてぴょんこぴょんこと山を跳ね飛び越えながら移動するという描写もある。レムンとミレムを合体させた間の抜けたぬいぐるみのような姿であるという描写もある。要するに、ヘンテコなモフモフといった感じなのだが・・・・・・よくわからない。姿を自在に変えられるという物語もあるので、上記全てがフメジャラボイの姿なのかもしれない。

間の抜けた姿ではあるが無敵で、何者であっても、神や竜ですら、コイツを傷つけることは絶対にできないという。無限に巨大化することもでき、「隕石」や「流星」は、コイツが星をぶっ叩いて飛ばしているのだそうだ。何というスケール!

ちなみに、名前こそ違うが、非常によく似た存在が、世界中の神話に登場する。例えばラヴェニール神話では、「法則無き存在」を意味するウファムールと呼ばれ、ルグディール神話では「世界の理を無視する者」、ルドルーズ神話では「世界を埋める者」、リューレル文明では「星落とし」として、フメジャラボイと同じような物語で登場する。姿や能力についての記述も、実によく似ている。前述の「隕石・流星」の話も共通している。ヘンテコな存在であるという認識も、世界共通である。

冒頭でも書いた本書のタイトルでもある「リーグ・ボイ・フメジャラボイ」のような呪文の異様さ妙ちきりんさまでも、似ている。例えばラヴェニール神話の「ウファムール」を顕現させるという魔除けの呪文は、

リーラカ

ルーラカ

リリラカ

ルン

ウファムールー

である。これまた、「リーグ・ボイ・フメジャラボイ」にも負けないというか、妙に頭に残るヘンテコ・リズムであるという意味では実によく似ている。

もしやコイツ、実在しているのでは・・・・・・?いたら楽しい(いや、恐ろしいか)と思うが、どうだろう。

ところで、面白い話がある。ジルレクト・レパール氏による歴史的大発見である、ルグディール帝国時代地下都市遺跡、神話に登場する都の名を取ってルーレク・レナリー遺跡と名付けられたあの遺跡には、実に多くの見事な怪物の壁画が残されており、世界中の研究者達を大興奮させた(私もその一人である)。

私はジルレクト・レパール氏自身に誘われ(マーナル・ネイム氏による紹介で)、この遺跡の調査の協力を依頼されるという非常な幸運に恵まれたのだが、その調査で実に素晴らしい発見があった。

怪物達を描いた壁画の中に、フメジャラボイにしか見えない怪物も描かれていたのだ。惑星と思われる球体を叩いている姿で描かれていることからも、ほぼ間違いないと思われる。姿は、ミレムの耳を長くして先を丸くした、ぬいぐるみのような、何とも可愛らしいというか、周りの恐ろしい怪物たちの中にあって、異彩を放っている絵であった。

まぁとにかく、よくわからん存在なのだ。パディアでは、「フメジャラボイな奴」と言えば、「よくわからん奴」という意味である。うーん、フメジャラボイ!

フメジャラボイの説明ばかりになってしまったが、本書は、このフメジャラボイについての物語を幼い頃にたっぷり聞かされ、絵本でたっぷり見て読んで魅せられ、フメジャラボイの研究と、魅力を世界に伝えるための活動に生涯を費やした神話学者マーナル・ネイムによる傑作絵本だ。子どもの頃は、オリジナルのフメジャラボイばかり描いていたというだけあって、「フメジャラボイらしい」感じはしながらも、実に様々なバリエーションの姿を見事に描き出している。私は、33ページのフメジャラボイが一番、イメージに合っていると感じた(前述のルーレク・レナリー遺跡で描かれていたものに一番近いイメージ)。あなたは、どのフメジャラボイが一番、フメジャラボイらしいと感じるだろうか?

訳注

フメジャラボイ

パディアの神話や民話に登場する、「謎の存在」。本当に困った時、「リーグ・ボイ・フメジャラボイ」と唱えると、フメジャラボイという奴が現れるのだが、事態を余計に悪化させてしまうことも多い。そして、今まで困っていたと思っていたことなど、実は大したことでは無かったと思い知らされるという、哲学的なような、教訓たっぷりなような、ただの迷惑なやつなような、とにかく、よくわからない存在である。

この謎の神獣はラヴェニール神話やルグディール神話など、世界中の神話に、ウファムールなど、名こそ違えど、ほぼ同じ存在を示すものとして登場することで知られており、それらの神話では、「星砕き」や「物理法則をねじ曲げる存在」など、何やら凄まじいスケールで語られている。無限に巨大化することもでき、「隕石」や「流星」は、この神獣が星をぶっ叩いて飛ばしているものなのだという。

フメジャラボイ事件

人身売買組織に拉致された少女たちが、何者かに救われたが、その際に犯人たちが全員、人知を超えているとしか表現のしようのない肉塊に変えられた。その恐るべき力を持った者の正体は今なお、不明であるという異様な未解決事件。

「フメジャラボイ事件」と呼ばれるのは、救われた少女たちが全員、「フメジャラボイが助けてくれたの、フメジャラボイが、やっつけてくれたの!」と泣きながら繰り返していたということに由来する。

この事件の当事者のうちの一人が、この事件をきっかけにフメジャラボイ研究に進み、最高のフメジャラボイ研究者と目されるようになった神話学者マーナル・ネイムであることは有名。

ジルレクト・レパール

セレンディール文明初期に活躍したパディアの洞窟探検家、洞窟写真家。特に「ルーレク・レナリー遺跡」「眼の洞窟」の発見で知られる。

パディア大陸北端部にある「眼の洞窟」の最深部付近にて、発光生物により、「眼」が光るようになっている場所を見つけて国際的なニュースとなった。

ルグディール大陸にて洞窟探検中、ルグディール帝国時代の地下都市のひとつ(ルグディール神話などで「亡びを記録する都」と呼ばれていた伝説の都市ルーレク・レナリーにちなみ、ルーレク・レナリー遺跡と名づけられた)を発見した(一般にはこの遺跡の発見者として名が知られ、歴史の教科書では必ず記述されている)。

マーナル・ネイム

マーナル・ネイム パディアの神話学者、作家、パディア国立歴史学院神話学教授。教授。フメジャラボイ研究者の第一人者として知られる。パディアの神話や民話に登場する、「謎の存在」フメジャラボイに魅せられ、その研究と、魅力を世界に伝えるための活動に生涯を費やした。

「フメジャラボイ事件」と呼ばれる、人身売買組織に拉致された少女たちが、何者かに救われたが、その際に犯人たちが全員、肉塊に変えられ、その恐るべき力を持った者の正体は今なお、不明であるという異様な未解決事件の当事者であることは有名。