『宇宙を泳ぐタマクルム・ムークーの物語』(セレンディール神話伝説博物館 / 編)
レビュアー:エルーズ・リザリー ルクトレスの神話学者。セレンディール神話学院教授、セレンディール異星同地博物館研究員を兼任。異星同地と神話の関連についての研究をしている。ウファムール(フメジャラボイ)についての言い伝えや、ウファムールについての思い出などを、総勢数万人にも及ぶインタビューとしてまとめた『ウファムールを愛する人々 ─ ウファムール・インタビュー』がヴィーレ・クレグディール賞をはじめ、様々な賞を受賞し、絶賛された。主な著書に『神話・伝説に登場する異星同地事典』『フメジャラボイだらけ』『滅亡の監視者』などがある。
「宇宙を泳ぐタマクルム・ムークーの物語展」(開催:セレンディール神話伝説博物館)に寄稿した文章
ムークーは、宇宙をマイペースで泳ぎながら、星々を見守っているとされる、「星包み」「星隠し」「星守り」「日隠し」などと呼ばれてきた、壮大なスケールの神獣である。
何やら凄そうだが、神話(ルドルーズ神話、イリル・カイナ神話、アレド・カゾム神話など)をちゃんと読むと、惑星に巨大な隕石が衝突しそうになるところを、巨大なヒレでそっと逸らしてくれたり、星を砕こう(!)とするこれまたとんでもない神獣に「星を砕いちゃダメだよ」と諌めて人類が知らぬうちに救ってくれていたり、太陽に近づき過ぎてアチチ!と慌てて離れたりと、究極に頼りがいのある方でありながら、ユルさ全開で、実に可愛らしい(ロム・クルムル氏の絵がまた、和みの極地、まさにムークー顕現、としか言い様のないステキな絵なのである・・・・・・)。
「可愛らしい」なんて、神獣に対して不敬かもしれないが(ムークーの恩には報いぬ、なんて言葉もある)、そんなことは気にしないだろうなぁ思わせてくれる雰囲気もまた、魅力的なのだ。心も体も、全てが圧倒的にデカいのである。
古代の人々も、タマクルムを穏やかな優しい生物として愛でていたことが、ムークーを通して伝わる。
この展示会を通して、タマクルム、ひいては生物への優しい眼差しを育んだ子どもたちもまた、次代にその眼差しを継いでいってくれることだろう。神話とは、厳粛な儀式や小難しい書物の中だけで書かれているものなどでは決してない。この展示会もまた、神話を語り継ぐ場なのだ。
訳注
ムークー
様々な神話や伝説に登場する「宇宙を泳ぐ巨大なタマクルムの神獣」のルドルーズ神話での名。
宇宙をマイペースで泳ぎながら、惑星に巨大な隕石が衝突しそうになるところを、巨大なヒレでそっと逸らしてくれたりして星々を見守っているとされている。
「星くるみ」「星包み」「星隠し」「星守り」「宙泳ぎ」「遊永」など、古来より多彩な呼び名で親しまれてきた。
画像は、ムークーのモデルとなったとされるムークータマクルム

タマクルム
ルドルーズ湖固有種のクルム類。
もともと、丸みのある体型が特徴的なクルム類だが、タマクルムはその丸みがより強く、名の通り球体に近い。
ルドルーズ文明文明をはじめ、ルドルーズ湖、通称「砂海」では、タマクルムは神が愛する生きものとされ、その穏やかで好奇心が強く、友好的な性質から、人類の友として親しまれてきた。
夜になると発光する種が多いことから、古代より宇宙的なイメージを喚起させる存在として認識されてきており、ルドルーズ湖を宇宙、タマクルムを星や隕石などに見立てた表現(「星屑湖」「流星映し」など)が多い。
ほぼ似た球体状の体型に、数万種にも及ぶ、様々な模様や色を持ったタマクルムがいるため、それぞれの種に、模様から連想される事物の象徴(例えば、雷光のような模様を持つイカズチタマクルムは、「雷」「電気」「(人類を雷から守る)守護者」のように)とされ、神話や文学、芸術や工芸、服飾など非常に幅広い分野でモチーフとして用いられ、また「泳宝」「湖中星」「湖泳星」など、古来より多彩な呼び名で親しまれてきた。

セレンディール神話伝説博物館
セレンディール神話伝説博物館:世界中の神話・伝説についての資料や工芸品、美術、研究成果などを展示する世界最大の神話専門博物館。個別の神話についての詳細な展示もしているが、主に世界の神話・伝説に共通すること、互いの影響、関連性などについての展示を主軸としている。
ロム・クルムル
ザルヴィア出身の旋律画家、生物学者。ペンネーム「ロム・クルムル」は、ザルヴィア神話に登場する巨大なクルムの神様の名が由来。タマクルムのムグーを主人公とした旋律画『ムグー』シリーズで世界的に有名。伝記旋律画『リルカ・アルール』でジェルド・ルードル賞(優れた伝記作品に贈られる賞)を旋律画作品として初の受賞。『ムグー』シリーズの印税、キャラクターグッズなどから得られた莫大な収入のほとんどをクルム研究及び、生物の研究、教育、保護の資金として寄付していることでも知られる。