『写真集 ボフリ乗り』(キール・レヴィルク)

レビュアー:ルージス・グレティール(エレルリーズ書店ブック・レビュー):ラディールの書店員・小説家。エレルリーズ書店の選書専属社員。『竜禍読書日記』でエレルリーズ文学賞を受賞。『竜禍読書日記』の原稿を勤務先のエレルリーズ書店に送付し、家族も残してそのまま失踪している。そしてその後、いかなる生存の痕跡も残しておらず、その行方は現在まで続く謎となっている。『竜禍読書日記』作中の、竜禍が再び起こると警告した「望むいつかは来ないが望まぬいつかは必ず来る」という言葉がよく引用され、現在では他の災害や個人の病気などについても用いられるようになっている。

ラディール大陸の海洋民族たちの通過儀礼である「ボフリ乗り」を研究してきた文化人類学者キール・レヴィルクによる、ボフリ乗りの写真集。

衝動買いしまう人が続出したという、「最大最強のボフリ」ラディールボフリがカメラ手前でその巨大な牙を大地に突き立て、その攻撃をギリギリでかわしたレクール族の若者がボフリの首の毛を必死でつかみ、背中に乗り上げようとしている瞬間を捉えた歴史的傑作写真を筆頭に、命がけの通過儀礼に挑戦する若者たちの姿を見せてくれる。

ヴィーレ・クレグディール賞を受賞した同著者による不朽の名著『通過儀礼を終えて ─ ボフリ乗りをやり遂げた勇者たちの言葉』を読んだ人には、この写真集の真の価値、そして「重さ」がよく理解できるはずだ。まだ未読の人も、絶対に、読んで欲しい。

多くの人を瞬見永想に陥らせた、この表紙の写真に写っている勇敢な青年こそが、著者キール・レヴィルクの助手であり、親友であり、息子のように思っていた、あの青年である。この写真が撮影された直後、彼は、ボフリのあの巨大な牙に貫かれ、命を落とした。

かつて感じたことのないほどの喪失感が著者を襲い、この伝統儀式を憎みかけた。だが、青年が最期に見せた笑顔と「見ててくれた?やったよ、やったんだ!」という言葉が、彼を「ボフリ乗り」の深奥へと導く動機となった。それまでは「知的好奇心」の対象であったボフリ乗りが、生涯をかけて研究すべき、彼の根幹となる、「信仰」とも言えるものに変わった。

キール・レヴィルクはこの儀式で得られる「何か」を知るために、三千人を超えるボフリ乗りの挑戦者達へのインタビューと撮影を続けた。表紙の青年だけでなく、その後も、多くの死傷者を出し続け、そのたびに苦しい思いをしたが、取材を続けた。そして生まれたのが、『通過儀礼を終えて ─ ボフリ乗りをやり遂げた勇者たちの言葉』、『ボフリ乗り ─ ラディール海洋民族の通過儀礼』、などといった名著、そして本写真集である。

この写真集は、キール・レヴィルクによる、勇者たちへの鎮魂曲なのだ。

訳注

ボフリ

巨大な牙が特徴的な、大型の水棲生物。肉食性で、ソウコウリディンなどを捕食する。

非常に気性が荒く、古から漁師やダイバーに恐れられており、「気性が激しい」「凶暴」「乱暴」の代名詞的存在となっている一方、自分より大きなものにも臆せず向かってゆく様が「勇気あるもの」として讃えられ、勇敢さや強固な信念の象徴として、武器や紋章などのモチーフとされてきた。

良くも悪くも「(性格や信念などが)変わらない」ということのたとえとして用いられることが多い。

生物に関連する300万以上もの膨大なことわざを世界中から集めたディレル・アーティによれば、ことわざの数が最も多い生物は、ボフリであるという。その数、なんと30万以上である。ボフリが、どれほど人類の関心をひいてきた生物であるかが、ことわざからも圧倒的な迫力を以て証されている。

ラディールボフリ

ヴィーレ・クレグディール賞

『竜禍』の作者ヴィーレ・クレグディールを記念して、優れたノンフィクション作品に対して贈られる賞。レゴール中央図書館主催。書籍部門と映像部門がある。ノンフィクション作家、ドキュメンタリー作家、ジャーナリストらにとっては、最高の栄誉の一つ。受賞者には、高額の賞金及び世界横断都列車の終生無料乗車パスが贈られる。これらの特典により、受賞後、更に優れた作品を生み出す者も多い。