『ミーリィはすごいぞ』(レダム・リズル)

レビュアー:ディレル・アーティ

レゴールの言語学者、辞典編纂者。セレンディール言語大学教授。生物に関することわざや格言などについての世界的権威。セレンディール文明誕生以前と以降で使われ方が変化したことわざや格言について特に深い関心を持ち、専攻している。

生物に関するありとあらゆることわざや慣用句、故事などを、世界中をまわって集め、レムンやレルン、ボフリやミーリィ、クルムにリズディール、レムール、リーン、グムーヴなど、生物種ごとに分け、編纂した、総計収録数300万項目以上にも及ぶ驚異的なことわざ辞典『生物種類別ことわざ辞典』は、他の追随を許さないものとして最高の賛辞を以て評価されており、文化の記録に関する業績に対して授与されるリーネイク賞をはじめ、多数の賞を受賞している。

『生物種類別ことわざ辞典』『ジーヴァルみたいな奴 ─ 生物観の変遷と言葉の関係』が、人禍記念博物館の「人禍記録指定図書」に選定されている。

ミーリィの毒は、複数の毒を攻撃時にブレンドするものであるということ、尾の複数箇所に分散した毒腺の存在とその仕組みなどを解明した研究書『ミーリィの化学と工学』を出版したことで、著者レダム・リズルの意に反し、ミーリィへの恐怖と嫌悪がより強まり、虐殺が強化されてしまった。

自身の研究のせいでミーリィへの迫害が激化してしまったことにショックを受け、「私は、ミーリィの素晴らしさを解明したかっただけだし、実際、この驚異的な仕組みを知って、より畏敬の念を持つようになったのに。こんなことなら、隠しておくべきだった。ミーリィたちを殺しているのは、私だ」と家族や親しい友人に吐露していたという。

彼は、ミーリィへの誤解を解こうと、ミーリィの魅力を伝えるための本や公演、保護活動などに全力を尽くした。本書は、そうした活動の一環として執筆した本である。

レダム・リズル自身が描いた親しみを感じさせるユーモラスなイラストや、私財を投じて一流のサイエンティフィックイラストレーターに依頼した精密な図解、ミーリィの存在が海での生態系に不可欠であること、決して無敵なわけではなく、皆が美味しく食べているリディンの前には無力で餌になっていること、ミーリィの身体がどれほど長い時間の進化の積み上げで磨き抜かれてきたものなのか、などを丁寧に情熱を持って語りかけた。

残念ながら彼が存命中は、一部の支持者を除いてほとんど評価されなかったが(親しみやすくしたこのタイトルや、彼自身が描いたイラストを幼稚だと嘲笑する“識者”も多かった)、この本は消えず、新しい世代の子ども達の中には、ミーリィや生物への愛情、敬意を育んでいくものもいた。

セレンディール文明創始者ラヴェニールも、本書をリーリル・エリナール(エレルリーズ書店創業者)に進められて読みふけっていたという。

本書の解説(「これほどミーリィを愛していた人が他にいるだろうか」)を書いた、『完全捕食者』『悲劇のミーリィ学者 レダム・リズル』などの著作で知られるミーリィ研究者の第一人者、シーゼル・ユリークも、『ミーリィはすごいぞ』を幼少時に買ってもらい、何千回となく繰り返し愛読してきたと記している。

実は、シーゼル・ユリークが、レダム・リズルの自殺について知ったのは、思春期の頃だった。彼の自殺とその理由を知った時、はるかに昔の人であるのに、まるで親しい人が死んだかのようなショックを受け、しばらくは何も手を付ける気になれないほどであったと語っている。今でも、自分のせいでミーリィたちがより嫌われ、虐殺されるようになってしまったと思ったレダム・リズルが、その誤解を晴らすためにこの優しく暖かい絵を一生懸命描いていた姿を想像すると、胸が苦しくなるという。

余談だが、シーゼル・ユリークが創設した『ミーリィの集い』の公式ロゴは、この本のためにレダム・リズルが描いた絵を用いてデザインしたものである。

訳注

ミーリィ

群れで獲物を襲う水棲の捕食生物。

背びれが鋭い刃状になっており、上から下に弧を描くように獲物の体に切りつけ、パクッとあいた傷口に、群れで一斉に飛び込んでいき、体内に生きたまま侵入して中から食い荒らすという恐るべき生態から、古代より人類に忌み嫌われてきた。

実際にミーリィの犠牲となった人間の数はそれほど多くないとされているが、数は少なくともその死に様があまりにも壮絶であることから、犠牲となった者の身内などの憎悪は激しく、また、それを伝え聞いた人々もまた同様に、ミーリィを恐れ、嫌悪するようになる、などの悪循環がかつてはあった。そのため、ミーリィに関しては基本的に、ネガティヴな言葉や民話、神話などがほとんどである。

「群禍」と呼ばれることが最も多いが、他にも「常飢」「虐移し」など様々な名で呼ばれてきた。